2017年11月22日水曜日

オレオレ詐欺の「出し子」に詐欺の故意が認められず無罪とされた事例(大邱地方法院2017年10月26日)

 最近の特殊詐欺は分業化され、所謂「出し子」のような末端組織は言われたとおりにお金を引き出すだけであり、犯罪の片棒を担いているという意識がないことがあります。
 本件は、検察官は特殊詐欺の手口はよく知られており「もしかしたら特殊詐欺の片棒を担がされているのかもしれない」という疑いがあったのであれば、詐欺ほう助罪の故意があるとして起訴しましたが、裁判官は「身元を隠そうとしていないのは自分が犯罪を行っているという意識がないから」とし、無罪としました。
 裁判官は「出し子」もお金が必要な状況を利用されて道具にされた被害者なので処罰をすべきでないという意識があったのかもしれませんが、あまり深く考えない人ほど犯罪の意識がないと判断され、犯罪の故意が認められなくなるという結論には疑問があります。
 以下は、判決文の一部抜粋です。

 幇助は、正犯が犯行をすることを知りながらその実行行為を容易にする従犯の行為なので、従犯は正犯の実行を幇助するという幇助の故意と正犯の行為が構成要件に該当するという点に対する正犯の故意がなければならない。幇助犯においては、正犯の故意は正犯によって実現される犯罪の具体的内容を認識することを要するものではなく、未必的認識または予見で十分である。但し、このような主観的要件またその証明責任は検察官にあり、有罪の認定は裁判官をして合理的疑いをはさむ余地がない程度に公訴事実が真実なものである確信をもたせる証明力をもつ証拠によらなければならないので、そのような証拠がなければ例え被告人に有罪の疑いがあるとしても被告人の利益と判断しなければならない。
 さらに特殊詐欺犯罪組織がリーダーを中心に分業組織形態で犯行を行ってその社会的弊害が深刻であっても根絶されない状況に至り、「出し子」など末端組織であるとしても厳重な処罰を受けるようになりながら、犯罪組織が直接的に犯行の対価を提示して「出し子」などを集めることが難しくなっている状況になると、特殊詐欺組織は求職者や貸付が切実な者に接近し、あたかも正常な貸付回収業務や貸付過程の一部であるように巧妙に欺罔しながら上の者たちを犯行の道具に利用しようとする試みを頻繁に行っている。どうかすると特殊詐欺の被害者や犯行の道具として利用される者全てが客観的にみると常識に合わない犯罪者の言葉に騙され自分の意図とは関係なくその指示に従って行動するようになり、そのうち結果的に犯行の道具と利用された者についてだけその結果が重大でその経緯に避難可能性があるという事情だけでその主観的行為を容易に認定することはできない。
 通常の特殊詐欺の「出し子」が身元を隠すための帽子やマスクを利用して他人名義の口座に入金された金員をATMを利用して引き出すのと異なり、被告人らは既存に使用していた自分の銀行口座を利用し、銀行の窓口に直接身分証を提示した後、出金伝票を作成してお金を引き出すなど自分の身分を隠すための何等の措置を取っていない。もし被告人が上の送金額が特殊詐欺の被害金であるという点を未必的にでも認識または予見したならば、直ちに犯人とされてしまう状況で上のような方法で犯行をしたものとは思えない。
 被告人が処罰される犯罪は「対価の授受を約束して自分のアクセス媒体を他人に貸与したり譲渡した」ことであり、「被告人らの口座に送金された特殊詐欺の被害金を直接引き出した」この事件の公訴事実とはその行為態様が異なるので、上のような犯罪前歴があるとして被告人の故意を推定することはできない。

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