2017年12月20日水曜日

下請法が禁止する「買いたたき」の該当性(大法院2017年12月7日判決)

 本件は、下請代金を決定するための要素の一つである「生産性向上率」のパーセンテージについて親事業者と下請事業者との間で合意がなかったことが、「買いたたき」に該当するかどうか争われた事件です。
 日本の下請法でも第4条第5号で「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」と規定して買いたたきを禁止していますが、買いたたきに該当するかどうか十分な協議が行われたか、通常の対価との乖離状況、原材料の価格動向などを勘案して総合的に判断するとされています。
 本件でも生産性向上率が協議の対象になるとしても、全体としての下請代金は協議を通して決定され、1人当たりの下請代金は他の業者より高いか同じ水準であったので買いたたきには該当しないとしました。
 下請事業者から「買いたたき」があったと訴えがあって、公正取引委員会が買いたたきを認めたのに、裁判所でひっくり返されると下請事業者は裁判所に対して不信感を抱きそうな気もしました。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年12月19日火曜日

下請法にもとづく直接請求の可否(大法院2017年12月5日判決)

 韓国には下請事業者を保護するための「下請取引の公正化に関する法律」という法律があって、親事業者の下請事業者に対する不当要求の禁止や下請代金の支払いの適正化だけでなく、下請事業者が注文者に対して下請代金を直接請求できることが規定されています。
 日本の下請法は「下請代金支払遅延等防止法」が正式名称で、不当要求の禁止や下請代金の支払いの適正化が規定されていますが、下請事業者が注文者に対して代金を直接請求できる規定はありません。特別法に規定がなくても、下請事業者は債権者代位権を使って注文者に代金を直接請求することができますが、下請事業者の保護を考えると特別法で規定しておくことは良いことだと思います。
 本件は、下請事業者が親事業者の注文者に対する代金請求権を差押えたあと、下請法の規定にもとづいて代金の直接請求をした事例です。裁判所は、親事業者の注文者に対する代金請求権が差し押さえられている場合は下請法にもとづく直接請求ができず、それは下請事業者が差し押さえている場合も同じであるとしました。
 下請事業者は債権を差し押さえており、直接請求ができなくても保護されているので、結論としては妥当だと思いますが、この下請業者は裁判をしなければ差し押さえた債権から代金を回収できないという問題は残ります。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年12月12日火曜日

機械科の教授が大学で化粧品を発明した場合、職務発明になるか(特許法院2017年11月24日判決)

 本件は、忠清大学の機械科の教授が大学で洗顔用ウェットティッシュに関する発明をして特許を取得したのに対し、大学が職務発明であるとして大学に特許権があると主張していたものです。
 第一審の判決を取り消しているので、第一審では職務発明であると認定されたようですが、特許裁判所は業務の範囲に属していないとして職務発明であることを否定しました。
 発明というものは何もないところから突然アイディアがわくものでなく、何かを応用して発明するというのが一般的だと思われますが、この判決では、発明が業務上の何かを応用したかどうかは考慮せず、発明内容と業務との関連性のみを判断しています。
 職場で発明したものは職務をきっかけにしていることが多く、そのようなことを考慮すると職場で発明したものは全て職務発明になってしまうので、発明のきっかけなどは考慮しなかったのではないかと考えます。しかし、そうすると、この教授は業務と関係ないことのために職場の備品を使ったことになるのではないかという点が気になります。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年12月11日月曜日

映画館は視覚障碍者のために音声ガイドを提供する義務があるか(ソウル中央地方法院2017年12月7日判決)

 本件は、視覚障碍者や聴覚障碍者である原告らが映画館に対して字幕や音声ガイドの提供を求めたのに対し、裁判所が障碍者差別禁止法にもとづいて字幕や音声ガイドを提供する必要があると認めたものです。ただし、これは映画館が配給会社などから字幕ファイルや音声ガイドファイルを提供されており、字幕や音声ガイドを提供しようと思えば提供できた事案なので、常に映画館が字幕や音声ガイドを提供する義務があると認めたものではありません。
 日本では、平成28年から障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)が施行されましたが、事業者が差別を解消するための合理的配慮をすることは努力義務にとどまっているので、日本で同じような裁判が起こされたとしても原告の請求が認められるのは難しいと思われます。
 もっとも、映画に関する障害者差別の取り組みとしてはスマホのアプリを利用した音声ガイドシステムが作られたり、大手配給会社が邦画で音声ガイド付きの上映を促進することにしたなど、少しずつですが行われているようです。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年12月7日木曜日

外国のサーバー内にある電子情報を差押えすることができるか(大法院2017年11月29日判決)

 本件は、外国の会社が提供する電子メールサービスを利用してやり取りされたメールの内容を差し押さえたことが適法であるとしたものです。
 日本では、2011年に刑事訴訟法が改正されたときに、第218条第2項で遠隔地にあるサーバから電子情報をパソコン等にダウンロードして差押えができること(リモート差押え)を条文化しました。
 日本の裁判所が発布した令状にもとづいて外国にあるサーバに対してアクセスできるかどうかについては、横浜地裁平成28年3月17日判決において、検証許可状にもとづいてパソコンに送受信メールをダウンロードして保存することは違法であるとしました。また、メールサーバが他国に存在している場合にこれにアクセスすることは、当該他国の主権に対する侵害が問題となりうるとし、捜査機関としては国際捜査共助を要請する方法によることが望ましいとしました。
 しかしながら、国際捜査共助を要請しなければダウンロードできないとすると、サーバが国内にあるのか国外にあるのか判明しない場合、また、国外のどこにあるか判明しない場合は捜査ができなくなってしまいます。差押え令状があればサーバにアクセスする権限があるとして、今回の韓国の判例のように、サーバが国外にあっても差押えることができると解するべきと考えます。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年12月4日月曜日

製造物責任の欠陥の立証の程度(ソウル西部地方法院2017年11月28日)

 本件は、会社で使用していた梯子の脚が突然折れて従業員が怪我をしたので会社が従業員に損害賠償金を支払ったことから、この会社が梯子の製造会社に求償するために製造物責任に基づく損害賠償を請求したものです。
 製造物責任を追及するためには製造物に欠陥があることを原告が証明しなければなりませんが、欠陥を具体的に証明することは難しいので、消費者保護の観点から欠陥の立証の程度を緩和すべきとされていました。
 日本では、東京地裁2012年1月30日判決において、「欠陥の意義、法の趣旨が被害者保護にあることなどに照らすと、原告は欠陥の存在を主張、立証するために、当該製造物を適正な使用方法で使用していたにもかかわらず、通常予想できない事故が発生したことを主張、立証することで足り、それ以上に欠陥の部位やその態様等を特定した上で、自己が発生するに至った科学的機序まで主張立証すべき責任を負うものではないと解するのが相当である」とし、「普通に使っていたらあり得ない事故が発生した」ことを証明すればよいとしました。
 本件は、原告が「普通に使っていたらあり得ない事故が発生した」ことを証明し、被告が「欠陥以外の原因で事故が発生した」ことを証明できなければ、製造物に欠陥があることを認定するとしましたが、これは、原告が欠陥の評価根拠事実を主張立証し、被告が欠陥の評価障害事実を主張立証しなければならないと判示したと解釈でき、製造物の欠陥を一般の過失のように理解しているものと思われます。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2017年12月1日金曜日

外貨債権をウォン貨で請求したあとに為替相場が変動した場合どうするか(ソウル西部地方法院2017年11月22日判決)

 例えば韓国の会社と取引を行う際に売買代金をウォン貨で定めた場合、もし日本で裁判になったときは、ウォン貨で請求されたとしても日本円で払ってもよいと民法403条で定めています。これを代用給付と言います。代用給付が認められる場合の為替相場の基準日については、日本においても事実審の弁論終結日とされています(最高裁1975年7月15日判決)。
 本件は、韓国の裁判所で売買代金をドル貨で定めていたものをウォン貨に換算して請求していたのですが、為替相場が変動して当初の請求額を認めると本来の債権額を上回ってしまうことになったため、実際は請求の全部を認容しているのですが、判決としては請求の一部認容としたものです。
 本件は当初の請求額が本来の債権額を上回ったので一部認容ということになりましたが、この理屈によると、為替相場によっては当初の請求額が本来の債権額を下回ることがあるので、その場合は、あくまでもウォン貨によって請求されたものとして一部請求とみなして残りの追加請求を認めることになりそうです。そうすると、次の裁判の途中で為替相場が変動して前の裁判で認められた金額で本来の債権額を満たすとすると、前の裁判では残りの金額があると認めながら、次の裁判では残りの金額がないということになり、気持ちが悪いです。
 なお、韓国では「訴訟促進等に関する特例法」という法律があり、遅延損害金の法定利率を訴状が送達された翌日からは15%と定められています。日本で裁判をした場合であっても韓国法が適用される場合は遅延損害金の利率も15%となるので注意が必要です。
 以下は、判決の一部抜粋です。