2018年3月30日金曜日

北朝鮮のツイッターをフォローすると国家保安法違反になるか(大法院2018年1月25日判決)

 本件は北朝鮮のツイッターアカウントをフォローしたことが国家保安法第7条(讃揚、鼓舞等)に該当するか争われた事件です。
 結論としては、頒布や頒布の幇助、所持には当たらないとして一部無罪となりましたが、反国家団体に同調している部分は認められて有罪となりました。
 人は生まれる国を選択することができませんが、自分が選択できないことのせいで自分の行動が制限されることがあってはならないというのが基本的人権の根本思想だと考えています。生まれる国は選択することはできないとしても、生活する国は選択することができるのだから、生まれた国が嫌なら出て行けばいいという人もいますが、そのような考え方は多数派の暴力だと思います。
 今は激動の世の中ですが、相変わらず行政文書の改ざんだの、貴乃花の処分だのしかテレビでやらない日本という国は、きっと平和なんだろうなと思われます。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月29日木曜日

犬鍋にするために犬を殺したことが動物愛護法違反とされた事件(済州地方法院2018年3月22日判決)

 本件は、犬鍋にするために犬を殺した方法が残虐であるとして動物愛護法違反の罪となり、懲役8ヶ月執行猶予2年、保護観察と160時間の社会奉仕を命じられた事件です。
 韓国では夏になると体力をつけるために犬を食べる習慣があって、よくテレビで犬を盗まれたというニュースをやっていました。血統書付きの犬を盗んで食べたのが見つかって何百万円の損害賠償を請求されたというのもありました。
 本件は犬を食べたこと自体が犯罪となったのではなく、犬の殺し方が残忍であったとして動物愛護法違反の罪となりました。スイスではロブスターを生きたままゆでることが法律で禁止されるようになりましたし、食べるために動物を殺すにしても、愛情をもって殺さなければならないということなのでしょうか。
 以下は、判決の一部抜粋です。
 いかなる者も動物に対して道具、薬物を使用して傷害を負わせる虐待行為をしてはならない。
 それにもかかわらず、被告人らは2017年3月25日12時ごろ、済州市にある道路でCから買い入れた犬1匹を被告人Aのオートバイにひもでつないでから被告人Aはオートバイを運転して行き、被告人Bは後ろから乗用車を運転して付いていく方法で上の犬を無理やり連れて行き、上のオートバイについて走って行ったが疲れて倒れた犬を続けて引っ張っていくことで犬の脚や口などに擦過傷などを与えて虐待行為をした。
 いかなる者も首をつるなどの残忍な方法で動物を殺してはならない。
 それにもかかわらず、被告人らは2017年3月25日13時ごろ、済州市にある被告人Aの住居地横の空き地で被告人Aは上のように引っ張ってきた犬の首にひもをつないでそこに設置されていた鉄パイプにかけてから、犬を持ち上げて、被告人Bは横でこれを見守る方法で共謀して上の犬をつるして残忍な方法で犬を殺した。

2018年3月23日金曜日

受刑中の被告人に執行猶予の判決ができるか(仁川地方法院2018年2月22日判決)

 本件は、仁川拘置所に収監されていた被告人が、懲役刑が確定して矯正施設に移されるのが嫌で、自分の住所地に近い拘置所に移動できるように、知人に自分を詐欺罪で告訴させた事件です。これにより、虚偽告訴教唆罪で執行猶予付きの懲役刑となりました。
 懲役刑が確定したからと言って直ちに刑務所に行くわけではなく、しばらくは拘置所にいて、その期間に別の事件で逮捕されたり起訴されたりすると、刑務所ではなく、そのまま拘置所で受刑することになります。被告人は、遠くの刑務所に行ったら家族から面会に来てもらえなくなるので、家の近くの拘置所で受刑できるように策を弄したのだと思われます。
 なお、執行猶予について、韓国の刑法では、禁固以上の刑を宣告した判決が確定したときからその執行を終了したり免除されてから3年までの期間に犯した罪について刑を宣告する場合には執行猶予を付けることができません。
 本件は、被告人が恐喝罪の懲役刑が確定する前に犯した罪なので、被告人が受刑中であっても執行猶予をつけることができました。
 日本の刑法では、前に禁固以上の刑に処されたことがない者、または前に禁固以上の刑に処されたことがあってもその執行を終わった日から5年以内に禁固以上の刑に処されたことがない者は、刑の全部の執行を猶予することができると規定しているので、条文上は懲役刑に処されたことがある被告人には執行猶予を付けることができないように思えます。
 しかし、判例(最高裁昭和28年6月10日判決)は、同時に審判されていたら刑の執行を猶予することができたという理由で、刑が確定する前に犯した罪については執行猶予を付けることができるとしているので、日本でも執行猶予を付けることができます。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月20日火曜日

性暴力処罰法(カメラ等利用撮影)の適用について(大法院2017年12月28日判決)

 本件は、被害者が自分で撮影した下腹部の写真を被告人に渡したところ、被告人がその写真をSNSにアップしたことが、性暴力処罰法に規定するカメラ等利用撮影に該当するかが争いになりました。
 性暴力処罰法が規定するカメラ等利用撮影は他人の身体を撮影したり、その撮影物を公に展示した場合に処罰することを規定していますが、原審は、他人の身体が撮影された撮影物を展示した場合にも処罰することができると解釈しましたが、大法院は被告人が他人の体を撮影した撮影物を公に展示した場合にのみ処罰するとしか解釈できないとし、被害者が自分の意思で撮影したものを被告人が公に展示した場合は処罰できないとしました。
 日本ではリベンジポルノが問題になったことから2014年に私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(リベンジポルノ被害防止法)が制定され、性的な写真を不特定多数の者に提供すると処罰されるようになりましたが、撮影対象者が自分で撮った写真であっても第三者が閲覧するつもりでなければ、その写真を不特定多数の者に提供すると処罰されます。本件が日本で発生した事件であれば、リベンジポルノ被害防止法によって処罰されたと考えられます。
 一方、韓国では早い時期から性暴力処罰法を制定して性暴力に対応し、リベンジポルノについても被告人が撮影したものであれば処罰することができます。しかし、リベンジポルノは被害者が自分で撮影した性的写真を渡した後でインターネットなどで公開されてしまうことがよくあるので、これに対応できるように性暴力処罰法の改正が望まれます。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月19日月曜日

無罪になった場合に起訴が違法であったと慰謝料を請求できるか(釜山地方法院2018年2月21日判決)

 本件は、複数の恐喝、暴行などの事件で起訴された原告が、そのうち3つの恐喝事件について無罪となったことから、検察官が被害者の虚偽の陳述をうのみにして起訴および控訴したとして国に精神的苦痛に対する慰謝料を請求したものです。
 原告は起訴事実の一部が無罪になっただけで、残りの犯罪事実によって有罪の判決を受けているので、身体拘束を受けていた期間に対する補償をうけることはできないことから国家賠償訴訟を提起したものと思われます。
 刑事裁判で無罪になったことだけでは起訴が違法になることはないという判断は、日本では1978年10月20日及び1989年6月29日に最高裁が、韓国では2013年2月15日に大法院が判決の中で述べています。
 検事は有罪か無罪かを判断してもらうために裁判所に起訴することが仕事なので、結果として無罪と判断されたからといって直ちに起訴したことが違法にならないというのはそうなのでしょうが、そもそも罪となる事実がなかったにもかかわらず、そのような事実があると判断して起訴した場合は、少なくとも過失があるように思えます。
 つまり、起訴事実は存在するが、それが刑法上の犯罪にあたるかどうかの判断が検察と裁判所で分かれるということはあるとしても、起訴事実が存在しないのに、検察の収集した証拠から起訴事実が認定できるかどうかの判断が検察と裁判所で分かれるということはありえないだろうということです。
 確かに、裁判所が起訴事実の存在を認めなかったとしても、それは起訴事実が存在しなかったということではなく、検察官の収集した証拠からは起訴事実が認定できないというだけなのでしょう。起訴事実の存否は被告人しか知らないのですから。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月16日金曜日

正式裁判で略式命令の罰金額を増額できるか(水原地方法院2018年2月19日)

 本件は窃盗で50万ウォンの略式命令を受けましたが、それを不服として正式裁判を請求したところ、正式裁判で罰金額が100万ウォンに増額されたものです。
 略式命令を不服として正式裁判を請求した場合に、罰金額を増額できるかどうかについては、日本では最高裁昭和31年7月5日決定で正式裁判は上訴に当たらないので刑事訴訟法402条に規定する不利益変更の禁止は適用されないとしているので、正式裁判で罰金額を増額できるだけでなく、懲役刑を選択することもできます。
 一方、韓国では2017年12月19日に刑事訴訟法が改正されて457条の2(刑種上向の禁止等)が追加され、正式裁判では略式命令より重い種類の刑を宣告することができないこと、正式裁判で略式命令よりも重い刑を宣告する場合には量刑の理由を明らかにすることが明文化されました。本件は、改正刑事訴訟法が適用されて罰金の額が増額された最初の事例のようです。
 以下は、判決の一部抜粋です。
 被告人は、2017年4月ごろ、他人の建造物に侵入して物を摂取した犯行により罰金70万ウォンの略式命令を受けてからすぐに包装紙の中の内容物を取り換える方法で再び本件窃盗の犯行を繰り返した。被告人は、特に身体に障害があったり、高齢の年齢でもなく、家や自動車を所有しているようであるなど、生計型犯行であるともいえないところ、このように大胆で巧妙な犯行を被害者と示談したという理由のみで善処し続けると窃盗の習癖が改善されないといえる。その他に被告人の年齢、性向および環境、本件犯行の経緯および結果、犯行後の状況などの記録や弁論に現れた量刑の条件となる諸般の事情を総合すると、罰金額(50万ウォン)はかなり軽いといえるので、これを増額して主文のように刑を定める。

2018年3月15日木曜日

給与未払いに対して罰金が命じられた事例(釜山地方法院2018年1月25日判決)

 本件は、会社の経営者が知人の紹介で入社した者に対し、「会社に仕事のやり方を学びにきただけ」、「会社に利益が出たら一部を支払うという約束をした」として労働者に当たらないので給与を支払わなかったと主張したのに対し、労働者に当たるとして労働基準法違反で200万ウォンの罰金が命じられた事例です。
 僕も韓国の会社で働いていたときに、4ヶ月分の給与が未払いのまま会社が休業してしまったことがありました。就業ビザの問題があったので別の会社に転職するのも容易でなく、そのうち払ってくれることを期待してずるずると給与をもらえないまま働いていました。その後、他の会社に就職することができたので韓国生活を続けることができましたが、未払いの給与は結局もらえないままでした。
 こんなときに弁護士の知り合いがいたら、もっとよい解決方法があったかもしれないと思ったのが、弁護士になろうと思ったきっかけの1つになりました。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月14日水曜日

伝染病に感染したことについて国の責任を問えるか(ソウル中央地方法院2018年2月9日判決)

 本件は、院内感染でMERS(中東呼吸器症候群)に感染したのは国の対応に過失があったためと国家賠償を求めたのに対し、国の責任を認めたものです。
 韓国では、病院でMERS患者の疑いのある者が見つかった場合、疾病管理本部という国の機関が調査をするようになっています。本件は、MERS患者の疑いがあるという申告があったにもかかわらず訪問国がバーレーン(当時、MERS発生国家とされていなかった)であったという理由でMERS患者ではないとし、その後、MERS患者であると分かった後も接触者の調査が適切に行われず、同じ病棟にいた入院患者が転院し、転院先で原告にMERSを感染させることになりました。
 伝染病の対策が国の責務であったとしても、単に伝染病に感染したという結果のみで国の責任が認められるわけではありません。国の対策に落ち度があったということを原告が証明しなければなりませんが、一般的にはマニュアルに決められたとおりにやってさえいれば国の責任が認められることはまずありません。
 しかし、本件はマニュアルに決められたとおりにやっておらず、マニュアルどおりにやっていれば感染を防げたとして国の責任が認められました。
 以下は、判決の一部抜粋です。
 被告は、旧感染病の予防及び管理に関する法律(以下「旧感染病予防法」」という)第4条により感染病の予防及び防疫対策、感染病患者らの診療及び保護、感染病に関する情報の収集、分析及び提供、感染病に関する調査、研究などの事業を行う義務があり、その義務を履行するために保健福祉部傘下の疾病管理本部を置いて感染病に関する防疫、調査、検疫、試験、研究の業務を管掌するようにした(保健福祉部とその組織機関の職制第30条)。
 被告及びその傘下の疾病管理本部の感染病に関する防疫などに関する行政権限行使は関係法令の規定形式上、その裁量に任せられているといえるので、中東呼吸器症候群(以下「MERS」という)に関する防疫などに関する被告またはその傘下の疾病管理本部の判断を違法と評価するためには関連法令の趣旨と目的に照らしてみて具体的な事情により被告またはその傘下の疾病管理本部がその権限を行使して必要な措置を取らなかったことが顕著に不合理であると認められたり、経験則や論理則上、全く合理性を肯定することができない程度に達していると認められなければならない。
 甲第4、8号証の各記載に弁論全体の趣旨を加味すると1番患者のMERS検査と関連して下のような事実が認められる。
 1番患者が発病前14日以内にバーレーンを訪れた事実を診療過程で確認したFFソウル病院治療陣は2015年5月18日10時ごろソウル特別市○○区保健所にMERS疑似症患者として申告し、○○区保健所は直ちに疾病管理本部にMERS疑似症患者の発生申告及び診断検査の要請をした。しかし、疾病管理本部は1番患者が訪問したバーレーンがMERS発生国家でないという理由で検査要請を拒否した。
 FFソウル病院医療陣は○○区保健所から上のような事実を伝え聞いて2015年5月18日14時ごろ、直接疾病管理本部に連絡して再び診断検査を要請した。疾病管理本部は「他の呼吸器ウイルス検査結果が全て陰性と出たら検査を実施する」と応答し、1番患者の訪問地及びラクダなどの接触歴を再確認してからインフルエンザ検査をまず行うように指示した。
 FFソウル病院治療陣は2015年5月19日13時半ごろ疾病管理本部に1番患者に対するインフルエンザ検査結果が陰性であることを通知した。疾病管理本部は同日17時ごろ疫学調査官1名をFFソウル病院に送り2時間程度調査して、同日19時ごろ1番患者の検体が採取され、2015年5月31日6時ごろ1番患者のMERS感染が確診された。
 甲第4乃至6、11、12号証の各記載と弁論全体の趣旨を加味して認められる下のような事情に照らしてみると、疾病管理本部の公務員らが1番患者に対するMERS疑似症患者申告を受けても遅滞なく診断検査と疫学調査をせず、遅延したことは顕著に不合理であると判断される。
 旧感染病予防法第11条第1項、第2項、第13条第1項によると、医師は感染病患者を診断した場合所属医療機関の長に報告しなければならず、所属医療機関の長はMERSのような第4群感染病(上法第2条第5号第モ目)の場合、管轄保険所長に申告するようになっており、管轄保険所長は管轄市長らに、管轄市長らは保健福祉部長官及び市・道知事にそれぞれ報告するようになっている。疾病管理本部が2014年12月24日に改正したMERS予防及び管理指針(第2判、以下「MERS対応指針」という)によると、医療機関は保健所をとおして検体を疾病管理本部に移送して検査を依頼しなければならない。
 一方、旧感染病予防法第11条第5項、同法施行規則第6条第4項による感染病の診断基準及び法定感染病診断、申告基準にはMERS患者申告のための診断基準に「疑似症患者:臨床的、放射線学的、組織・病理学的に肺実質疾患(例えば肺炎又は急性呼吸混乱症候群)がある急性呼吸器感染者であって、ⅰ)発病前14日以内に中東地域に旅行または居住していた者、またはⅱ)原因不明の重症急性呼吸器疾患者を診た医療人、またはⅲ)発病14日以内に症状がある患者または疑似症患者と密接な接触をした者」と規定している。
 旧感染病予防法第18条第1項によると、疾病管理本部は感染病が発生して流行する憂慮があると認められる場合遅滞なく疫学調査をしなければならず、感染病管理事業指針とMERS対応指針によるとMERS疑似症患者が申告される場合遅滞なく管轄保健所の疫学調査班や中央/市・道の疫学調査班を現場に派遣して患者及び保護者を面談する方法などで危険要因を把握して感染経路を推定して接触者及び共同露出者を確認して流行の発生または伝播可能性を確認するようになっている。
 疾病管理本部は1番患者が訪問したバーレーンがMERS発生国家でなかったため疑似症患者に分類しなかったというが、MERS疑似症患者に関する関連規定や疾病管理本部マニュアルは疑似症患者の中東地域訪問来歴があれば申告をするように規定しているのみで訪問来歴該当国家を中東地域のMERS発病国のみに限定していない。また、2015年5月当時に中東地域のうちMERS発病地域として報告された国はサウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、ヨルダン、オマーン、クウェート、エジプト、イエメン、レバノン、イランなど10ヶ国でバーレーンはMERS発生国家として知られていた場所ではなかったが、地域的にサウジアラビアと国境を接している隣接国家として生活圏を同じくする可能性が高い国である。
 疾病管理本部は上のような疑似症患者発生申告と関連基準に符合するので即時に○○区保健所に検体を移送するようにして診断検査がなされるように措置し、確診前であっても疫学調査班を派遣して危険要因を把握し、接触者、接触範囲などを確認する注意義務があったが、検査拒絶と遅延によって疑似症患者が申告してから約33時間後に検体を採取し、申告してから約31時間後に2時間程度行われた疫学調査で接触者などもまともに把握できなかった。
 下のような理由で、被告の過失と原告のMERS感染との間の相当因果関係が認められる。
 次のような事情を総合してみると、疫学調査がちゃんと行われていれば、1番患者が入院した期間の8階病棟の入院患者は1番患者の接触者の範囲に含まれてそれによって原告の感染源として推定される16番患者も調査されていた。
 1番患者は病室内のみにいたのではなく、採血、検査などのためにエレベーターを利用して看護士ステーションに行くなど病室外を何度も移動し、これは他の多くの患者らも同じである。疫学調査官は1番患者に対する対面調査や現場調査などをとおしてこれを簡単に知ることができた。
 入院患者の移動拠点はそれぞれの病室なので、1番患者の病室外の接触者を探すのは1番患者の病室がある別紙図面のような8階病棟に入院していた患者らから出発しなければならない。8階病棟の入院患者のうち誰が「1番患者と接触した者」であるかいちいち確認するのは患者らがお互いに顔を記憶していなかったり調査条件などの理由で難しいともいえ、1番患者が16番患者と接触する様子が出てくる防犯カメラの映像などの資料もない。
 しかし、MERS対応指針は「患者と接触した者」以外に「患者の分泌物で汚染された環境と接触した可能性がある者(例:結婚式、葬式、教会、学校での同じグループなど)」を日常的接触者として把握するようにしている。入院患者は一日中病院で生活するようになっており、ほとんど一般人にくらべて免疫力が落ちていて観戦に脆弱な点、特にMERSは免疫機能低下者の感染確率が高く、予後も不良な点、1番患者が外来診療を受けた病院に派遣された疫学調査官らは日常的接触者の範囲を1番患者が来院した前後に一定時間に来院した者らと設定した点などに照らしてみると、8階病棟に入院していた患者らは少なくとも日常的接触者である「1番患者の分泌物で汚染された環境と接触した可能性がある者」として把握し、接触者の範囲に含めることが妥当である。
 2015年5月頃MERSの基礎感染再生産指数(すべての人口が該当疾病に免疫力がないと仮定したとき、感染性がある患者が感染可能期間の間に直接感染させる平均人員数、感染病の伝播力を表す指標)は0.6~0.8に過ぎず、疾病の流行が自然的に収束しうる程度で伝播力が弱く、人の間の密接接触による飛沫観戦が主要感染経路と知られている。しかし、MERSの明白な感染源及び感染経路は明らかにされておらず、ワクチンや抗ウイルス剤が開発されていないので対症的治療をするしかなく、なにより致命率が約40%とかなり高い。疾病管理本部がMERSの特性をすべて考慮して上のようなMERS対応指針を作ったといえる。
 甲第4、8号証の各記載と弁論全体の趣旨によると、疾病管理本部が病院を疫学調査した2015年5月20日と2015年5月21日の8階病棟の入院患者や保護者のうちMERS症状を出した者がいて、そのうち4名は発熱と関連のない病症であった事実が認められる。1番患者の動線によって接触者を把握するための疫学調査官の最小限の誠意がありさえすれば、上の患者らが把握され、8階病棟の入院患者や保護者は接触者として分類されていた。
 原告は、2015年5月30日朝から症状が始まり、MERSの平均潜伏期5日を考慮すると原告は2015年5月25日朝ごろに病院で16番患者から感染したと推定される。
 疾病管理本部が6番患者の確診によって病院の接触者を拡大して2次疫学調査を実施することを決定してから16番患者を把握するまで約2日と13時間の時間がかかった。これを基準にみると、もし1番患者が疑似症患者として申告された2015年5月18日10時ごろに直ちに検体採取及びまともな疫学調査がされていれば遅くとも2015年5月19日までには病院の接触者の範囲が確定され、それから約2日と13時間が過ぎて16番患者が別の病院に入院する前である2015年5月22日の昼までには16番患者が追跡されたので、16番患者と原告の接触が遮断された。
 遅延された1番患者の確診によってはじめて深層疫学調査を実施したとしても病院の接触者に対する調査がまともになされていれば2015年5月20日又は遅くとも2015年5月21日に病院の接触者の範囲が確定され、それから約2日と13時間が過ぎた2015年5月23日又は遅くとも2015年5月24日午前までには16番患者が追跡されたので原告が感染した時期以前に16番患者を隔離治療することができたといえる。

2018年3月8日木曜日

花火事故で業務上過失致傷が認められなかった事例(春川地方法院2018年1月9日判決)

 本件は、花火大会で水上から花火を発射したところ、その一部が観覧席近くまで飛んでいって爆発し、観覧客が怪我をしたという事件で、花火を発射した技術者2名が業務上過失致傷で起訴されたものです。
 検察は、安全距離確保などの義務を果たしていなかったことが過失に当たると主張しましたが、裁判所は、花火の発射場所と観覧席までの距離はある程度確保されていたとし、花火の一部だけが観覧席まで飛んだことから花火自体に不良があった可能性があるとして無罪としました。
 業務によって誰かを怪我させると、当然になんらかの過失(ミス)があったから怪我をさせたのですから、ストレートに業務上過失致傷が成立しそうですが、刑法上の過失はミス(主観的過失)ではなく、義務違反(客観的過失)であるとされています。
 本件も不良品の花火を使用したというミスはあったかもしれませんが、花火が不良がどうかは知る由もなかったので、通常すべきことをしていたので義務違反はなかったと判断したのは妥当だと思われます。
 ただ、被害者にとっては、この刑事裁判の結果によって民事上の損害賠償請求においても花火の主催者側に過失がなかったと判断される可能性が高く、誰からも賠償してもらえないということになってしまいます。こういうときのために保険には入っていた方がいいのかもしれません。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月6日火曜日

執行猶予期間満了後の再審で懲役刑を罰金刑に変更できるか(大法院2018年2月28日判決)

 姦通罪と傷害罪で懲役1年執行猶予2年の実刑判決を受けた被告人が、姦通罪が違憲と判断されたことをきっかけに再審を請求したところ、姦通罪は無罪となり、傷害罪について懲役刑から罰金刑に変更されました。
 ところが、再審の請求をしたときには、すでに執行猶予期間である2年が過ぎていたので、被告人は刑罰を受けなくてもよくなっているのに、再審を請求したことで罰金を払わなければならなくなったことが、二重処罰禁止の原則や不利益変更禁止の原則に反しているのではないかということが問題になりました。
 裁判所は、執行猶予期間が過ぎたことは刑罰を受けたことと同じとはいえないので被告人に懲役刑と罰金刑の二重処罰をしたことにはならない、罰金刑は懲役刑よりも重くないので不利益変更には当たらないとしました。
 確かに理屈としてはそうなのかもしれませんが、既に執行猶予期間が過ぎている被告人にとっては、再審請求をしなければ何も刑罰を受けなくてもよかったのに、再審請求をしたばかりに罰金を払わなければならなくなったという気持ちになると思います。
 例えば、弁護士は禁固以上の刑に処された場合は資格を失うということがありますし、再犯になると罪が重くなるので、懲役刑が罰金刑に変更されるのは有利な変更です。しかし、資格をもっていなければ関係ないですし、普通に生活していたら再犯で起訴されることはないので、罰金に変更されるのは不利益変更だといいたくなると思います。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月5日月曜日

警備員の夜間休憩時間は労働時間に該当するか(大法院2017年12月13日判決)

 本件は、マンションの警備員が夜間の休憩時間も労働時間に該当するとして時間外手当を請求した事件で、高等法院では実際に仕事をした時間は労働時間に該当するがそれ以外の時間は休憩時間としたのにたいし、大法院では実際に仕事をしていなかった時間も待機時間として労働時間に該当するとしたものです。
 判決の基礎となる事実関係や法律関係は全く同じであるにもかかわらず、異なる判決が出るというのは裁判官の差なのか、弁護士の説明の仕方が変わったからなのか分かりませんが、弁護士の訴訟行為とは「いかに裁判官を納得させるか」ということに尽きると思います。同じように司法試験に合格し、司法修習を受けているのですから、弁護士の質はある程度保証されてはいるのですが、やはりどの弁護士に依頼するかによって結果に差が出るということはあると思います。
 以下は、判決の一部抜粋です。

2018年3月2日金曜日

区長の違法行為について3億ウォンの求償が認められた事例(プサン高等法院2018年2月1日判決)

 公務員の違法行為によって損害を被ったとしても、その公務員に対して直接、損害賠償請求をすることはできず、その公務員が所属する国や地方公共団体を相手に損害賠償を請求することになります。だからといって、公務員が何の責任も負わないかというとそうではなく、損害賠償をした国や地方公共団体は公務員に対して求償をすることができます。
 もっとも、国や地方公共団体が積極的に公務員に対して求償をすることはほとんどなく、地方公共団体は住民訴訟をきっかけに公務員に対して求償をすることになります。
 その場合でも、支払った損害賠償の全額を公務員に対して求償できるわけではありません。
 本件は、大型スーパーが進出すると地域の中小規模の商店がつぶれてしまうかもしれないことを考慮し、区長が大型スーパーの建築許可申請を返戻し、受理しないことが違法と判断された後も返戻し続けたことに対し、地方公共団体が損害賠償をしたものです。
 第1審は区長の責任を20%と判断しましたが、本件では区長が職員の意見を無視して独断で返戻処分をしたことを重く見て70%の責任があるとし、3億5000万ウォンの賠償義務を認めました。
 地域のためになるようにすることが行政の役割と思ってやったことなのかもしれませんが、行政には権利利益の調整の役割があるので、一つの権利利益だけにこだわると違法と判断されることになります。
 以下は、判決の一部抜粋です。