2018年4月24日火曜日

電子ファイルとその出力物の同一性(大法院2018年2月8日判決)

 本件は、電子ファイルの状態で作成された売上記録を変造して脱税したとされた裁判において、問題となった売上記録を証拠として裁判所に提出する際に紙にプリントアウトして提出しましたが、このプリントアウトされた売上記録の内容と、USBに保存されている電子ファイルの内容が同じものであるかどうかが問題となりました。
 USBに保存されている電子ファイルの内容とプリントアウトされたものが同じ内容でないとすると、裁判所に提出された紙の記録は証拠にならないことになりますが、これらが同じものであるということは検察に証明責任があります。本件では、検察の証明が十分でないとして裁判所に提出された紙の記録に証拠能力がないとし、有罪を認めていた原審に差し戻しを命じました。
 電子ファイルの状態のものを紙にプリントアウトしたときに、そのプリントアウトされたものが電子ファイルの写しなのか、紙にプリントアウトされたものが原本なのかという問題もあり、そもそも電子ファイルとは何なのかという根本的なところから考えなければなりません。もっとも、原本は手書きで写しも手書きしかなかった頃は、原本と写しは明らかに区別することができましたが、原本をワープロで作成して写しをコピー機で作成すると、原本と写しを区別することができません。原本と写しの区別をすること自体が時代に合わなくなっているのかもしれません。
 以下は、判示の一部抜粋です。

 この部分の争点は、検事が証拠として提出した本件CDに保存されているファイルのうち原審が有罪の証拠とした「本件販売審査ファイル」とその出力物が本件USB内の原本ファイルと同一性が認められるかどうかである。
 電子文書を収録したファイルなどの場合には、その性質上、作成者の署名あるいは捺印がないだけでなく、作成者、管理者の意図や特定の技術によってその内容が編集、操作される危険性があることを考慮して、原本であることが証明されたりあるいは原本からコピーした写しである場合にはコピーの過程で編集されるなど人為的な改作なく原本の内容そのままコピーされた写しであることが証明されなければならず、そのような証明がない場合には容易にその証拠能力を認めることができない。そして、証拠として提出された電子文書ファイルの写しや出力物がコピー、出力過程で編集されるなど人為的な改作なく原本の内容をそのままコピー、出力したものであるという事実は電子文書ファイルの写しや出力物の生成と伝達及び保管などの手続に関与した者の証言や陳述、原本やコピーファイルの生成直後のハッシュ値の比較、電子文書ファイルに対する検証、鑑定の結果など諸般の事情を総合して判断することができる。このような原本同一性は証拠能力の要件に該当するので、検事がその存在について具体的に主張、証明しなければならない。
 本件CDには本件販売審査ファイルを含めてHが作成したものとみられる4,458個のファイル(以下、「本件個別ファイルら」という)と本件目録ファイルが保存されている。原審の鑑定結果によると、本件個別ファイルらはフォレンジックイメージング作業を経たイメージファイルではないので、本件USBイメージファイルと同一の形態のファイルではないが、本件USBイメージファイルがどのような形態の返還および複製などの過程を経て本件CDに一般ファイル形態で保存されたものかを確認する資料がまったく提出されたものがない。更に、本件目録ファイルには本件個別ファイルらの数字より多い4,508個のファイル関連の名前、生成、修正、アクセスの時間、ファイルのサイズ、MD5ハッシュ値、経路情報が保存されていて、原審の鑑定結果によれば、本件個別ファイルらのハッシュ値と本件目録ファイル上の該当ファイル別のハッシュ値を比較してみると、20個のファイルのハッシュ値が同一でないというものである。
 したがって、本件目録ファイルが生成、保存された経緯について何らの主張、証明がない本件で、本件目録ファイル自体のファイル名およびそのファイルの属性を通して知ることができる修正日時などに照らして本件目録ファイルが本件差押えの執行当時でないそれ以降に生成された可能性を排除することができない。
 本件事実確認書には本件USBイメージファイルの全体のハッシュ値のみが記載されているだけで、イメージングをした本件USB内の個別ファイルについてのハッシュ値は記載されていないので、本件事実確認書をもって本件販売審査ファイルと本件USB内の原本ファイルとの個別ハッシュ値を相互比較することもできない。
 Hは、第一審で、検察の捜査当時にエクセルファイルであった本件販売審査ファイルをみて、自分が作成したもので合っているという思ったと陳述した。しかし、Hが上の捜査当時に本件販売審査ファイルの全部を提示され、その販売金額を確認したといえる何らかの資料がない。かえって、Hは自ら正確に思い出せないが原本であまり必要ないものを削ってファイルを少し見やすくしたようだという陳述をしている。
 また、Hは第一審で、検察から本件販売審査ファイルの出力物のうち2012年1月の販売審査の部分のみを提示された状態で自分が整理した販売審査ファイルの内容で合っていて、販売審査ファイルの内容に実際に販売した酒の種類別の数量、売上金額、サービスした金額を入力した事実があると陳述し、弁護人から本件販売審査ファイル全体の出力物を提示された後、自分がそのようなファイルを作成した事実があると陳述もしている。しかし、Hが提示された全体の出力物の量が少なくない反面、本件遊興酒店の2012年1月から2015年10月までの営業期間の毎月の販売金額を正確に記憶することはできないという点とこのような陳述の経緯、先に見た関連陳述の内容などを合わせて考慮すると、このような陳述はHが提示された出力物の形式でいちいち売上金額などをファイル形態で作成、管理したことがあったという事実を確認するレベルに過ぎないという余地が十分にある。
 結局、Hの第一審の陳述のみでは本件販売審査ファイルやその出力物が本件USB内の原本ファイルと同一であるという内容を証明するというには十分でない。
 本件販売審査ファイルが本件USB内の原本ファイルを内容の改変なく複製したことが確認されない以上、本件販売審査ファイルと対照した結果その出力物から課税標準の基礎となる部分の変造内容を探すことができないという事情が本件USB内の原本ファイルの人為的改作なくその出力物が複製、出力されたことを裏付けるということもできない。
 それにもかかわらず、原審は本件販売審査ファイルとその出力物が本件USB内の原本ファイルの内容と同一性を認めることができ、証拠能力が認められると判断して、これを前提に特定犯罪加重処罰などに関する法律違反(租税)部分を有罪と認定した第一審をそのまま維持した。したがって、このような原審判決には必要な審理を尽くさないままデジタル証拠の証拠能力に関する法理を誤解した過ちがある。これを指摘する趣旨の上告理由の主張は理由がある。

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