2018年5月2日水曜日

子の返還請求が認められなかった事例(大法院2018年4月17日決定)

 本件は、日本で生活していた韓国人女性が夫の暴力に耐えられず子供2人をつれて韓国に帰国したのに対し、日本人の夫がハーグ条約に基づいて子の返還請求をしたのに対し、子供らは暴力を目撃したことで精神的な苦痛を経験していることから、子供らだけを日本に帰した場合に感じる精神的な苦痛を考慮し、子の返還を認めなかったものです。
 離婚した場合に子の取り合いになることは珍しい話ではなく、特に国際結婚が破たんした場合は、それぞれの国に帰ってしまうと子に会えなくなる可能性が高くなるので、自分の手元に置いておきたいという気持ちが強くなります。
 本件は、父親が子供に暴力を振るっていたわけではありませんが、子供が母親が暴力を受けるのを見ていたことも父親の子供に対するDVがあったとして、返還請求を認めなかったということなのかもしれませんが、子の福利を考えるときに過去の問題を重要視してしまうと、離婚の原因を作った側の親は子を取り返すことができなくなる可能性が高くなってしまいます。
 また、韓国だけでなく日本も同じですが、子供は母親が育てた方がよいという認識が今でも強く残っているような気がします。
 以下は、判示の一部抜粋です。

 「国際的な子の奪取の民事的側面に関する条約」(以下、「条約」という)とその履行法律である「ハーグ条約の履行に関する法律」(以下、「法」という)によると、子の大韓民国への不法な移動または誘致によって協約による養育権が侵害された場合、裁判所に子の返還を求めることができ(法第12条第1項)、裁判所は子の福利を最優先に考慮して迅速に処理しなければならない(法第3条)。
 一方、裁判所は子の不法な移動などによって養育権を侵害された場合にも法第12条第4項第3号で定めた「子の返還によって子が肉体的または精神的危害にさらされたり、その他耐え難い状況に処すようになる重大な危険がある事実」がある場合には返還請求を棄却することができる(法第12条第4項)。
 法第12条第4項第3号の返還例外事由は子の迅速な返還によってかえって子の具体的で、個別的な福利が侵害されて発生する危険を防止するためのもので、その解釈においてはこの権益が一方の親の養育権や手続きの迅速性などより優先して考慮されなければならない。
 したがって、重大な危険には請求人の子に対する直接的な暴力や虐待などによって子の心身に有害な影響を及ぼす憂慮がある場合だけでなく、相手方である一方の親に対する頻繁な暴力などによって子に精神的な危害が発生する場合や常居所国に返還する場合、かえって適切な保護や養育を受けることができなくなってひどい苦痛を経験するようになる場合を含む。
 返還請求を受けた裁判所は上のような事情以外にもその危険の程度や繰り返される憂慮があるか、子の返還前後の養育に関する具体的な環境、返還が子に及ぼす心理的、肉体的影響などその他一切の事情を総合的に検討するが、請求人と相手方の養育権などを考慮して子に対する最善の利益が何かや返還がかえって子の福利に深刻な侵害になるかについて判断しなければならない。
 上の法理と原審が適法に採択した証拠によると、請求人が相手方に数回にわたって暴言や暴行を行い、事件本人1は上の暴力を目撃して精神的苦痛を経験し、事件本人らのみ又は事件本人2のみ日本に帰る場合、そのような分離がかえって事件本人らに対する心理的苦痛を与える憂慮があるという点などの事情を考慮して事件本人らが返還される場合重大な危険があるとみて請求人の請求を棄却した原審の判断は正当で、それに重大な危険などに関する法理を誤解したり論理や経験の法則を違反して裁判に影響を及ぼす誤りはない。

0 件のコメント:

コメントを投稿